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”世帯年収が高いほど子どもの成績は良い”でも「結局はお金」ではありません。
2014年、文部科学省が発表した「全国学力学習状況調査」の分析結果によって、年収の高い家庭の子どもほど成績が高い傾向にあることが判明しました。家庭の年収と子どもの学力の相関性を明らかにした全国調査は初めてだっただけに、大きく報道されたのを覚えていらっしゃる方も多いことでしょう。
「東大生の親、年収1000万超は◯割」
などの報道も相まって、家庭の年収と現代の子どもの学力との関係は多くの人が何となく感じていたことではあっただけに、「やっぱり、結局は教育投資にお金をつぎ込めということか」とがっかりした人もいたかもしれません。
しかし、専門サイト「お受験じょうほう」、「中学受験スタディ」を運営するなど、子どもの受験情報のプロである株式会社バレクセル代表・野倉学さんは、「成績の良い子どもの家庭に共通するのは、単純な世帯年収の高さというよりも“余裕”です」と指摘します。
「それは“子どものために”という発想から行動し、結果的に学習に適した生活環境を整えることのできる、心の余裕と言ってもいいでしょう」。
では、親の年収が高く、子の学力が高い家庭では、どのような生活環境が普通の家庭とは異なるのでしょうか。
”経済力のある家庭の“余裕”に学ぶ”子どもの学力が高くなる生活環境とは?
賢い子どもが育つ環境とは、蔵書の多さや、親が新聞やニュースで政治経済の情報をよく見たり、クラシック音楽を聴いたり美術館へ行ったりなど、いわゆる“文化資本”の豊かな環境である、とはよく言われること。
ところが、文化度さえ高ければいいということではないのです。
「親に経済力があって子の学力が高い家庭には、じっくりと子どもの様子を観察し、本人の適性を考えながら親子で一緒に何かをするといった子育てのスタイルが見られます」と、野倉さん。
実のところ、
同じように経済力がある家庭であっても、子どもに盲目的にいくつも習い事をさせるような家庭より、親が継続的に子どものケアと教育に取り組んでいる家庭の方が、子どもの学力は高くなる傾向にあるとのことです。
「親が自分の力に自信がないからアウトソーシングに走る事例も少なくありませんが、問題はテクニックではないのです。
家庭の中に学びや対話の習慣があるかどうか。幼稚園や小学生なら、例えばレゴブロックを親子で作って、親が導きながら創造力を育むことをお互いに楽しんだり、ニュースで見かけた言葉の背景や関連する話題、空を見上げて雲の様子からわかる気候の話などを親が子どもに語ってやることができるか。そういった、学び考え、かつ対話する習慣が、親の側にもあるかどうかが一番大きいでしょう」。
さらに、家の中の物理的な環境として、本や新聞、テレビやインターネットなどとの付き合い方にも秘訣があるとのこと。
「本や新聞などの活字が家庭の中に多く置かれていることは、家庭の学び考える習慣を表します。質の高い情報を自発的に求め、触れていることの表れです」。一方で、テレビやインターネット、ゲームなどは「子どもにとって、刺激が強く、中毒性がある。つまりそれだけ面白いわけなのですが、中毒になり時間を取られ過ぎてしまうのはもったいないこと。禁止する必要はありませんが、ある程度時間を制限して集中して行うようにさせる家庭では、子どもの生活にメリハリが生まれます」。
今からでもできる、子どもの能力を伸ばす環境を作る心がけとは
「決して経済力が高くなくても、子どもの学力を上げる生活環境は実現できます」と野倉さんは言います。
そのコツは、先述したような“親子共に考える習慣”を培い、親子ともに集中力を身につけて継続することだとか。
「心・技・体の考え方ですが、学力や社会的な成功にはやはり知力、体力、集中力が必要です」。
毎日規則的な生活をし、睡眠も食事もしっかりとり、食卓での会話やしつけを大切にする。運動や読書など、親が集中して何かに打ち込む姿を子どもに見せ、時には一緒にしようと誘ってみる。魚・ザリガニ釣り、フィールドアスレチックなどの自然体験や、砂場でお城を作るなどの公園遊びに、親子で一生懸命取り組む。そういった、親と子で何かを一緒に達成する体験から、子どもは多くをグングンと吸収します。
「親が24時間を生産的に使えていれば、子もその後ろ姿から学びます。学習時間も、集中して成果を上げることができれば短くて済み、積み重ねやすい。そうやって子どもは習慣的に学び考えたり達成したりすることは楽しいことだ、自分のためになることだと理解するのです」。結果的に、「何かに打ち込んで成し遂げることは楽しい」という肯定的な感覚がチャレンジし続ける気持ちにつながり、社会で成功する鍵になるのかもしれません。
子どもの生活環境を作る、父親と母親それぞれの役割
最後に、父親と母親それぞれの役割として子育てで心がけたい姿勢とは、どのようなものでしょうか。
「父親は、人の為になる、世の役に立つという客観的で余裕のある視点を子どもにしっかり伝えていくこと、また母親は、学び続けることが子ども自身のためになるのだと信じて、日々のペースメーカーになってあげて欲しいと思います。そして父母ともに、子どもの学校で何が起こっているかに興味を持ち、自分の子どもだけでなくて全体のためになるべく、広い視野で関わっていくこともまた、“余裕”ある子育てのあり方でしょう」。
志文舎通信03より